当記事は、長くグリッドトレードに関わってきた一人として界隈の変遷を備忘録的に記したものです。
なるべく確からしさを確認しながら記事にしてはいますが、独自の調査に基づいたものとなっていることを予めご了承ください。
もし誤りなどに気づいたら、ご指摘・お知らせいただけると幸いです。
日本におけるグリッドトレードの発祥
グリッドトレードとは古くから確立された手法です。海外ではGrid Tradingという名で2001年には存在していることを確認しました。無限ナンピンを起源としている説もあり、そうなるとさらに遡って確立された手法ということになります。
投資後進国の日本においてはどうでしょうか。すくなくともグリッドトレードという言葉が出始めるのは先なのですが2000年代後半に普及を始めたといえます。
当該手法を日本に浸透させたのはマネースクウェア社で異論を唱える人はいないでしょう。
(図1.トラップリピートイフダン概要図[出典:M2Jサイト])
マネースクウェア社はFXトレードにおいて
・イフダン注文を
・等間隔に多数同時に張り巡らせ、
・さらに決済後に再注文を繰り返す・・・
という形の自動売買サービスを実現しました。
そうです「トラップリピートイフダン(通称トラリピ)」の発祥こそが日本においてのグリッドトレードの発祥といえるのです。
時期にして2007年12月頃のことです。
トラリピの普及
(図2.トラリピ口座変遷[出典:M2Jサイト])
トラリピ提供当初、マネースクウェア社の口座保有者に対し、トラリピ利用率は50%程度でした。
その後、2009年以降はマネースクウェア社の口座数は右肩上がりとなります。2010年には80%以上の口座保有者がトラリピを利用している状態に到達しました。
それ以降も口座数の伸びもキレイに右肩上がりで、トラリピ利用率も維持されていたことから、「口座数の伸び = トラリピの伸び」と言えるでしょう。
当時に自動売買サービスは他にはなく、何もしなくても増えていく資産(背景にはそれがしやすい相場環境があった)、ブロガーの方の記事などもあって人気が高まっていき普及が進みます。
その一方で、他FX業者に比べてコストが高いことが注視されるようにもなりました。当時の私も同じ認識を持ってしまいました。
FX業者間では熾烈な競争があり、手数料無料化、スプレッドの狭小化などが進んでいる中、マネースクウェアHDのトラリピは異常といえるほどのコスト高だったのです。
当時はコスト高についてはなかなか受け入れ難い水準でしたが、今ではグリッドトレードの優位性・独創的なサービス提供の付加価値として理解できます。
「トラリピ手法」の普及
人気の高まりに対し、コスト高を問題視された結果、もっとコストの低く有利な環境で実現したい・・・
ということで手法そのものを手動で行う人も出てきました。
また、同様の手法を低コストで自動売買するシステムも出現します。FXの自動売買が行えるMetaTrader4(MT4)による自動売買システムで、俗にいうトラリピEAと呼ばれたものたちです。
最初はコスト低減が目的であったのかもしれませんが、システム構築の柔軟性から色々な発展を遂げました。結果として付加価値のついたトラリピEAも多数生まれたのです。
自動売買システムの大手販売サイトではトラリピEAは非常に人気で、上位ランキングをトラリピEAで独占していた時期もあったくらいです。
このようにしてマネースクウェア社が提供しているトラリピは、当該社のトラリピというサービスだけでなく、手法としてしっかりと世に浸透され、発展の岐路に立ち始めていました。
「トラリピ手法」と言えば誰もが同じトレードをイメージし、FXトレードの世界では手法としても普及されていったのです。
2012年頃のことです。(私はちょうどこの頃にトラリピ手法を運用し始めています)
第一次特許問題:トラリピEA一掃
このままトラリピ手法は人気の高まりと普及・浸透・発展が続くと思いきや、マネースクウェア社が特許を主張します。
(勝手に第一次特許問題・・・と表現していますが、当サイトの独自の表現です)
自動売買システムの販売大手サイトでトラリピEAに該当するものは、例外なく販売停止に追い込まれました。
トラリピEAの一掃は目の当りにしていましたが、それは大きな衝撃でした。2013年4月頃のことです。
特許は尊重されるべきで、当たり前といえば当たり前ですが、このときから特許が強く意識され始めるようになります。
この出来事を皮切りに、トラリピ手法という表現は本家であるマネースクウェア社のトラリピ以外に使うのは暗黙的にタブーになっていきます(特にEA界隈ではその傾向は強かった)。
このようにして、根付いた言葉「トラリピ手法」は、手法そのものを表現する言葉として不適切になり、業界スタンダードな呼び名が失われたのです。
各FX業者による追随
トラリピEAが一掃されてしまってから程なく、次は企業による同様手法のサービスがリリースされていきます。
筆頭となったのは
・アイネット証券社のループイフダン
のリリースです。2013年10月頃です。
トラリピの問題となるコスト高に対し、一石を投じたサービスです。
簡単・低コストを打ち出し、トラリピの代替サービスとして浸透するのに多くの時間は掛かりませんでした。
さらに約半年後には
・インヴァスト証券のオートパイロット注文(トライオート)
がリリースされます。2014年3月のことです。
続いてまた約半年後に
・外為オンラインのiサイクル注文
・当該ライセンス提供によるFXトレーディングシステムズのトラッキングトレード
のリリースと続きます。2014年9,10月のことです。
さらに時は経過して、
・為替どっとコムの連続注文機能
・マネーパートナーズの連続予約注文
といった手法そのものを便利に行う機能がリリースされ、選択肢は非常に増えていきました。
第二次特許問題:訴訟発生(iサイクル注文)
各社追随が始まる中で、マネースクウェア社が外為オンラインを特許侵害で訴えます。トラリピの特許を外為オンラインのiサイクル注文が侵害しているとのこと。2015年2月のことです。
このとき、多くのトレーダーも注目しました。私もその一人です。
この時、マネースクウェア社は次のようなフレーズをメディアに大きく発信し話題になりました。
(図4.トラリピ訴訟メッセージ[出典:M2Jサイト])
裁判は1年以上かかり、2016年5月外為オンラインは勝訴し、iサイクル注文も特許取得となりました。
しかしながら、この特許を巡る訴訟は簡単には終わりません。
2017年7月までにマネースクウェアHDは3件の訴訟を起こし、2018年10月にはマネースクウェアHDの請求を認める判決が下されます。
が、外為オンライン社はすぐに控訴に転じます。
そして2019年10月8日、知的財産高等裁判所において外為オンライン社の控訴を棄却する判決が下されるのです。
2015年2月に始まった第二次特許問題と名付けた訴訟は知的財産高等裁判所の判決を持って終結を迎える形となりました。(2019年10月時点)
実際の運用者においては不利益も心配されましたが、外為オンライン社はiサイクル注文に関してはサービス終了していますし、差し止め請求を受けていない別サービスに移管しています。
運用者において不利益がクローズアップされることはあまり目にしていません。運用者が泣く事はなかったのはグリッドトレード手法愛用者としては一安心ということろです。(勝手にそう解釈していますが、事実と異なるなどあればお知らせください)
その後の各FX業者の動向
その後は新たに自動売買サービスを提供するFX業者は現れませんでした。が、突如として創業90年のネット証券老舗企業「松井証券」が自動売買サービスを提供し始めます。2023年4月です。
久々の自動売買サービスの登場に界隈で注目を浴びます。裁量レベルのスプレッドの狭さ、最小取引通貨単位の小ささ、通貨ペアのラインナップ、スワップ・・・と、自動売買サービスとしては他業者を抜きに出るスペックに注目が集まらない訳はありません。
多くの運用者の注目を浴びる中、間髪入れずにマネースクウェア社が特許主張し始めました(第三次特許問題に発展してしまうのか・・・この先に続く)。
多様化される手法の呼称
このように各社からも色々なサービスがリリースされる中、特許というデリケートな問題も絡み、手法の呼称は多様化します。代表的なものを以下にピックアップしました。
トラリピ手法・トラリピ系
グリッドトレードの普及の起源であり、大いなる貢献である「トラリピ」を指す言葉。マネースクウェア社が特許を有していることもあり、本家以外には特許問題を敬遠して避ける傾向もあるが、一般呼称として浸透している。手動で行う場合においては「手動トラリピ」などと表現される。
リピートFX・リピート系
繰り返し注文が行われるという観点では自動売買を指すが、「同じ注文」の繰り返し・・・という意味で使われ、グリッドトレード手法を指す言葉になった。トラリピの文言を使用しない呼称では最も普及しているのはこの呼び方か。
グリッドトレード
相場に対して等間隔にポジションを取る手法。名称そのものの発祥は海外でGrid Tradingと表記され、日本ではグリッドトレードと称される。手法・戦略として指す表現として適切と思われるが、呼称としてはあまり普及していない。
トラップ系
本来のトラップトレードとは、優位性のあるところに予約注文などを入れ、相場がその注文に刺さることを待つトレードとしての表現だった(はず)。
予約注文は1本であってもトラップ系となる訳だが、トラリピという文言を回避するために使用されるようになり、グリッドトレード手法を指す言葉としての意味合いを持つようになった。
その他の呼称
あまり多くはないが「連続注文系」などと表現されることも稀にある。為替どっとコムやマネーパートナーズにそれと似たのがあるため、グリッドトレードを表現する言葉としても使われる。
いまだに統一的な表現がないものの、いずれも同様の手法を指す言葉ですが、日本においてはリピート系FXと表現されることが一般的な気がします。
より一層グリッドトレードの多様化がすすむMT4/5界隈
各社のサービスが追随されてグリッドトレードの選択肢が増える一方、MT4/5側もグリッドトレードは衰退しませんでした。
MT4/5では自動売買システムの構築に柔軟性があることから、各社のサービスよりも発展・多様化が早く進んでいるのも事実です。
(たとえば、トラリピの決済トレールのリリースは2015年1月ですが、それに該当する機能は2012年時点のトラリピEAには組み込まれていました)
本来はテクニカルレスであったグリッドトレードに、テクニカル要素を組み込んだ自動売買システムも生まれてます。
また、等間隔ということでグリッドトレードと名が付いたにもかかわらず、リスクリターンの観点で注文間隔や利幅を可変にするものなども開発されています。
このように弱点を補う,または強みを伸ばすような改善を施されたEAが複数の開発者にて世に送り出され、多様化されています。
今後の展望
グリッドトレードは資産運用の面が強い手法であり、且つ 確固たる手法でその優位性は少なくとも日本だけで15年近く保たれています。
よって、劇的に進化を遂げることは難しいと思いますが、逆に衰退して通用しなくなるものでもないと予想できます。
そのような中でも各社は顧客の囲い込みに奮闘し、少しでも優位に立とうと色々なサービスを打ち出してきます。
レンジにうまくフォーカスする・・・
トレンド逆行しないようにする・・・
短期で稼いで長期逆行で負けないよう逃げ切る・・・
レンジ形成しやすい通貨ペアでかつ無相関通貨ペアで分散運用する・・・
「適合相場に上手く仕掛ける、リスクを排除する」という目的はいずれも同じです。
結局のところ、グリッドトレードの本質は大きな変貌を遂げることなく、如何にうまく運用するかといったところにフォーカスされ、トレードとしては最も基本の形が今後も残っていくのではないだろうか。
・・・(この先の出来事によって更新予定)